肩関節周囲炎(通称:四十肩・五十肩)について
病態
特に誘因なく肩関節に炎症が生じ、肩関節痛と拘縮(関節の可動域制限)を主体とする疾患を肩関節周囲炎(通称:四十肩・五十肩)と呼びます。後発年齢は40-60歳で、糖尿病や甲状腺機能低下症などの基礎疾患を有する症例も存在します。また、外傷をきっかけとして発症する場合もあります。
原因
関節を構成する骨、軟骨、靭帯、腱などが老化し肩関節の周囲組織に炎症が起こることが原因です。さらに進行すると、肩関節の動きをよくする肩峰下滑液包や関節を包む関節包が癒着し、肩関節の可動域制限が制限され「拘縮」に繋がります。また、経年的な日常生活や仕事、趣味活動など、繰り返す肩への負担や、日常的に慢性化した不良姿勢により発症しやすくなります。
症状
肩関節周囲炎の病期は大きく急性期・拘縮期・回復期の3つに分類されます。急性期は安静時・夜間時痛に加え、動作時痛による可動域制限が認められます。拘縮期になると、炎症症状は落ち着きますが、拘縮が進行しより強い可動域制限・動作時が続きます。回復期では、拘縮・疼痛共に改善され徐々に日常生活で可能な動作が増えてきますが、発症から寛解までにかなりの期間が必要になると言われています。所説ありますが、下記のイラストをご参考にされてください。
主な症状は肩周囲の痛みですが、痛む部位としては肩の前方、側方や後方にもみられることがあります。
・前方や横に手を伸ばした時に痛む
・洗髪動作が困難になる
・腰の後ろに手が回せなくなる(エプロンが結べない)
上記のように、動きで痛みを感じる事が多く、動作が困難になってきます。
・何もしていない時でも肩がズキズキする
・就寝中に痛みが増す
また、酷くなると安静時にも症状を認めます。
診断
X線(レントゲン)診断では病態の特定はできず、骨、関節自体の変形や異常は認められないことが多く、超音波(エコー)検査によって、主にA(腱板筋)、B(上腕二頭筋長頭腱)、C(腱板疎部)等に炎症所見が認められ、上記症状と合わせて、肩関節周囲炎の診断が確定します。
A(腱板)の部位に、血流不良等が起因となり、リン酸カルシウム結晶が沈着し、これが進行すると徐々に石灰のように硬くなり、膨らんで痛みを生じさせることもあります。これを石灰沈着性腱板炎といい、肩関節周囲炎のひとつです。
治療
肩関節周囲炎の症状は炎症期、拘縮期、回復期の3つに分ける事ができ、それぞれの時期で優先的に対応すべき事が変わってきます。
<炎症期>
発症から2週間程度の事を言い、「肩の痛みで眠れない」「ジッとしていても疼く」という症状が特徴的です。この炎症期には内服薬や外用薬を使用し痛みをコントロールし、炎症を軽減させますが、症状に改善が見られず日常生活に支障をきたす場合にはエコーガイド下で関節内注入を行います。リハビリも同時に行っていきますが、積極的なリハビリは疼痛のため困難なため肩関節周囲筋の緊張を落とすリラクゼーションが中心となります。また、炎症症状の軽減を図るために超音波治療などの物理療法を併用し行います。
<拘縮期>
炎症症状は軽減してきたが、動きの制限を強く感じる発症から1~3か月程度の時期を言います。安静時の痛みは軽減し、運動時の痛みが残るという特徴があります。この時期からリハビリを積極的に行っていきますが、拘縮(関節が硬くなってしまい動きが悪くなっている状態)の程度は人によって様々ですので、可動域改善度合いも同様に個人差があります。当院では可動域制限の強い方に対して、エコーガイド下リリースなどの注入も医師と相談し行い、早期に可動域改善を図っています。この時期から温熱治療や衝撃波治療を症状に合わせて開始します。
<回復期>
発症から6か月前後の時期を言い、痛みはほぼないかあっても非常に軽微であり、リハビリを継続することで可動域も改善していきます。しかしながら、疼痛や拘縮が強く可動域改善に時間を要する場合は、非観血的関節授動術(マニプレーション)と呼ばれる手術を選択する場合もあります。
肩関節の拘縮を起こさない軽微な症状のうちに適切な治療(内服、物理療法、運動療法)を行うことで、より短期間で症状の改善を図ることができます。また、当院では拘縮を予防・改善させるために自宅でもできる簡単な体操の指導も行っております。
わずかな症状でも悪化する前の病院受診をお勧めいたします。気になる症状のある方はご相談ください。